基礎体温

思索の試作。詩作の施策。

浮間舟渡

浮間舟渡。「うきまふなど」と読む謎の駅。

埼京線で大宮から都内へ向かう途中に通る駅の一つだが、この駅で降りたことはないし、これからも一生降りることがないのではないかと思わせる駅である。

浮間舟渡。
よく見るとなかなか風情のある文字面である。
渡し舟のシルエットが見えてくるようだ。

しかし、この駅に何があるのかがわからない。川があるのかすらもわからない。

改めて埼京線沿線にある駅を眺めてみると、案外ほかの駅は想像がつく、あるいは降りたことがある。

しかし、浮間舟渡。
ここだけは、わからない。想像できないというよりは、想像が膨らみすぎてしまうのだ。傘をかぶった渡し守。遠くに見える渡り鳥たち。すすきのような草っ原。まるで版画のような、影絵のような情景が浮かんでくるのである。

浮間舟渡。
ここは、私にとって時間の区切りとなる駅でもある。
大宮駅から埼京線に乗り、例えばスマホでニュースを一通り読んではっとする、あるいは寝不足でつい寝てしまいふと目が覚める、そうした瞬間、まるで示し合わせたかのように、大抵いつも、「次は浮間舟渡」なのである。

浮間舟渡。
常に私の日常に絡みついてきて、それでいて決してその正体は見せてくれない、それが私にとっての浮間舟渡なのである。

住んでいる人にとっては、何を馬鹿なことを言ってるのかという話だろうが、私にとっては数少ない埼玉ミステリーなのである。